第二十七章 飛翔 二

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第二十七章 飛翔 二

また「異形の我」を再録します。

〈「異形の我
フラクタル的に見ても地球と脳は自己相似を成してをり、仮に脳裡に浮かぶ仮象の一つ一つがこの世に存在する物の象徴としたならば、脳裡に浮かぶ仮象は異形の我の仮の姿なのかもしれない。深海に棲む生物の異様な姿は漆黒の闇の中で自らの姿を妄想し、棲む環境がさうさせたに違ひない。私の脳裡に浮かぶ仮象の海の奥底には私の知らない異形の私が必ず棲息してゐる筈である。中にはぬらりと仮象に現れてその異形を見せる奴もゐるだらうが、多分奴らの殆どは私が死んでもその姿を現さずに闇の中でひっそりとその登場の機会を窺ってゐる筈だ。
――お前は誰だ。
――ふっ、お前だぜ。〉

タイトルについては前回書きましたが、内容を子細に見て行こうと思います。
まず、最初の一文です。

〈フラクタル的に見ても地球と脳は自己相似を成してをり、仮に脳裡に浮かぶ仮象の一つ一つがこの世に存在する物の象徴としたならば、脳裡に浮かぶ仮象は異形の我の仮の姿なのかもしれない。〉

何と言っても頭蓋内の脳を地球に見立てたところで、私は思索の三段跳びの助走を始めたのです。
つまり、脳に浮かんでは消えて行く仮象の数々が、地上に生きる生物に見立てられることをこの一文で発見したのです。

後から考えるとこれが決定的だったのです。
地球と脳を相似なものと看做してしまう考えは私が何十年もに亙って超えられも壊すことも出来なかった「存在論的」な壁を一気に飛び越えるほどに私には重大至極なものだったのでした。

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