縛られ、死に臨む巫女(巫子)(1)

『嘆』:なげく(タン)

この漢字の由来を知っているでしょうか?

当時、古来中国で「巫女(巫子)」の立場は、私たちが想像する以上に神聖で尊く、なおかつ相当な覚悟を強いられる立場でありました。

そのことを改めて知ることが出来る、とても恐ろしい漢字を紹介します・・・。

古来中国で「巫女(巫子)」とは皇帝、または王からその神秘の能力を崇められ、強大な力に護られ、相当な権力を有していたと言われています。

その分、「巫女(巫子)」が抱える責任や代償も重く「神託」を実行しても状況が改善しない場合、それは全て巫女(巫子)の責任とされました。

そのため「亀卜(きぼく)」が外れると巫女(巫子)が自ら、神への生贄に身を投じることも少なくはなかったようです。

まず「嘆」という漢字の右側の旁(つくり)を見てください。

字の形を見てもらえれば分かるように、この漢字は「革」と「火」と「土」からできています。
この字の形は「生き物が火の上で焼かれているさま」を表します。

縛られ、死に臨む巫女(巫子)(2)

漢字を細かく見てみると「火」と「土」は見たままで、飛び散る「火」の粉や、固まった粘土、どっしりと重い「土」の塊を象徴した形です。

そして、この「革」という漢字は、人が生きる上で欠かせない食料や防寒着などを作るために犠牲にした、牛や羊などの家畜です。

角のある、四足の家畜の「皮」を剥ぎ、平らにのばした状態。
それを真上から見下ろした形なのです。

ちなみに「皮」とは《生きている状態の皮膚の皮》、「革」とは死んだ動物の《皮をなめし、加工した革》のことを指します。

ここで少し、想像してみてください・・・。

「嘆」とは、人間が立っている姿を象形した「人」という漢字に、何本もの横棒。
これを「縄」に見立てています。

それは巫女(巫子)が、儀式用の「眉飾り」を施し、首から下を太い縄で何重にも縛られた姿を表します。

そして、左側に付く「口」(これは後ほど後述しますが「サイ」という「神器」のことを指します)。

つまり「嘆」という漢字は、巫女(巫子)が手を前に交差し、縛られ、火で焼かれている様子を象形した、世にも恐ろしい漢字なのです!

縛られ、死に臨む巫女(巫子)(3)

「嘆」の漢字には、もう1つ。左側に「口」が用いられていますね。

これは「サイ」という小さな器のことで、現代でも、お酒やお米などを量る際に使用されることがあります。

身近で馴染みのあるものとしては、「枡(ます)」とよく似ているというと分かりやすいでしょうか。

日本でも、古くから目にすることが多い「枡(ます)」ですが、ここでいう「サイ」とは、儀式のときに使用する「特別な器」と捉えてください。

この「サイ」という器には、巫女(巫子)が唱える「祝詞(のりと)」が入れられます。

巫女(巫子)が唱える「祝詞(のりと)」に依り、それを請けた神から「神託」が授けられるのです。

この《神へ奉げる言葉》としてあげられる「祝詞(のりと)」を入れる「サイ」は、なによりも尊く、どんなものよりも神聖なものであるため、何人たりとも穢してはならぬもの、護られるべき「神器」として、丁重に扱われました。

その「サイ」を巫女(巫子)が手に持ち、自らが犠牲となり、神への祈りを捧げるのです。

自然災害による不作や飢饉による義務感から行う行為だとしても、自責の念を抱きながら死出の旅に向かう巫女(巫子)の想いとは、いかなる心境だったでしょう。
悲しい最期です・・・。

似たような漢字に『漢』:から(カン)、『歓』:なげく(タン)などがあります。

「漢」の部首は「さんずい」、「歓」の部首は「ぼくづくり」です。

「漢」=川が氾濫し、水害に見舞われた際、巫女(巫子)が犠牲になること。

「歓」=自らが犠牲になり、まさにいま火で炙られ、身を投じようとする巫女(巫子)のさまを見て、嘆く人の姿を象形したものです。

今も昔も「責任者」という立場の人は、なかなか覚悟のいる立場だったことが窺える漢字ですね・・・。

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