第五章 ドストエフスキイ体験 一

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第五章 ドストエフスキイ体験 一

私は、どうも本番に弱く、大学受験に失敗し、二年目もまた失敗し、それでも合格したある大学の夜間部に入学しました。
昼夜逆転の生活しかできない私には、それがあっていたと思います。
が、しかし、私は人に何かを教わるのがどうも苦手で、最初の半年だけ大学に行っていましたが、それ以降は全て独学で大学の試験を受け、単位を取得して何とか五年で卒業できました。

さて、私のドストエフスキイ体験ですが、私は大学に入学する前に既にドストエフスキイの巨大作は全て読んでいましたが、当時から今に至るまで、私を魅了してやまないのが『悪霊』なのです。

私がドストエフスキイの作品で一番最初に読んだのが『悪霊』で、その時の熱狂は今も衰えることなく続いています。

小説でもこんなことが書けるのか

その時の私の率直な感想です。
ドストエフスキイの巨大作群は、読む者を魅了してやまない作品ばかりで、「地下室」から一気に開花するドストエフスキイの思索の奥深さに私は「かぶれ」てしまったのです。

そして、先に申した英語の講師との出会いです。
その人は授業で埴谷雄高の『死霊』の話を突然し出して、「ドストエフスキイを読んだなら『死霊』も必ず読むべし」という趣旨の事を言ったのでした。
私は、この人は面白い人だと思いその人の授業だけは出続けたのです。
しかし、その講義は半年で終わりの短期の講義でした。
そんな或る時にその人と大学近くの喫茶店で会ったのです。

私はすぐにその人に挨拶をしてその人の話を夢中で聞くことになったのでした。
私の大学生活はその人の講義とそのあとに続いた喫茶店での歓談が全てです。
しかし、その人は人間の「存在」に妥協することは絶対に許さず、私にいつも詰問するのでした。

君は何で存在しているのかな

こんな質問に私が答えられる筈もありません。
しかし、その人はその詰問をやめることなく、そして、私たちの講義を最後に別の大学へと移っていきました。

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