第二十四章 文章のリハビリテーション 三

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第二十四章 文章のリハビリテーション 三

浮遊と落下」をもう一度書き出してみます。

〈「浮遊と落下
――この浮遊感は何なのだらう。ふわふわと浮いてゐるやうでゐて、何故だらう、何処か底の知れぬ奈落へと落下してゐるやうな嫌な感じだけが脳裡を掠める……
さて、不意にお前は口に出したな、「許して下さい」と。お前は今、パスカルの深淵の真っ只中さ、へっ。〉

前回までは、

〈――この浮遊感は何なのだらう。ふわふわと浮いてゐるやうでゐて、何故だらう、何処か底の知れぬ奈落へと落下してゐるやうな嫌な感じだけが脳裡を掠める……〉

がまだ埴谷雄高の影響下にあることを示しましたが、さて、この文章で問題なのは、次の、

〈さて、不意にお前は口に出したな、「許して下さい」と。お前は今、パスカルの深淵の真っ只中さ、へっ。〉

です。
これも「パスカルの深淵」という言葉が出てきていますので、依然として埴谷雄高の影響は拭えませんが、しかし、ここで私ははっきりと自信が「パスカルの深淵」と名指しした「深淵」へ飛び込んだことを自覚したことを、自身ではっきりと認識したのでした。

さて、それではその「深淵」とは何なのかと言いますと、それはパスカルの『パンセ』に出てくる「深淵」、英訳だとAbyssです。
パスカルは勿論の事、埴谷雄高すら傍らから覗き込んでいただけのその「パスカルの深淵」に私は自ら進んで飛び込んだのです。
勿論、それは思惟上の事ですが、しかし、私は思考実験とは言え、「パスカルの深淵」へと答申したのでした。

その時に呻くように私の口から漏れ出た言葉が「許してください」だったのです。
ここで、私は神のような「存在」を無意識に想定しています。
その神の如き「存在」が私を責め苛んでいる様が、

〈さて、不意にお前は口に出したな、「許して下さい」と。お前は今、パスカルの深淵の真っ只中さ、へっ。〉

という皮肉に満ちた口ぶりの言葉なのです。
これで、私は文章を書く事のリハビリを始めたのでした。

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