第十一章 何も書けない 二

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第十一章 何も書けない 二

何にも文章が書けなくなった私は、大学を卒業して二、三年すると、しかし、角川書店関係の雑誌の編集・企画を手掛けていた編集プロダクションに就職することになったのでした。
そこでは、文学とは全く関係のない、音楽の新譜についての紹介記事を書くことが主な仕事でしたが、今にして思えば、それが決定的に判断を誤ったことだったのです。

昼間は音楽について言葉で書くという矛盾――音楽は聴けばそれで全てでその音楽についての文章は必要ない事――に自身を置き、深夜まで仕事が及ぶことが殆どだったその仕事が終わって家路に着くと、今度は「創作」に関してのお先真っ暗の道筋を求めて本を読み漁る、ほとんど寝ない日々を三年余り続けたある日、私は自身が既に正常でないとの判断に至ったのでした。

私はまず、内科へ行って相談してみたり、人間ドッグ並みに全身を検査しつくしたうえで、私が、強度の抑鬱状態に陥っていることが判明したのでした。
それでも、数か月は、抗鬱剤を飲みながら、仕事を続けていましたが、それもすでに私の限界を超えていたのでした。

私は、己ではすでに何もできない状態に陥っていて、最早、仕事を継続することは困難になり、それ以前に起きることが既に出来なくなってしまっていたのです。

私は、当然、仕事を辞めざるを得ず、全く外出が不可能な、つまり、医者に行くことすらできなくなってしまっていたのでした。

そんな私の異常な事に気が付いた私の家族間は、私の東京のアパートに突然やってきて、私を実家へと強制送還したのでした。

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