第十五章 地獄の中でも生き残れ

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第十五章 地獄の中でも生き残れ

さて、まだまだ強度の抑鬱状態にあった私は、それでも何とか本が読めるようになり、ゆっくりと私の内部で凝り固まっていた私の意識は溶解を始めて、少しですが、意識の自由を次第に取り戻しつつあったのでした。
とはいえ、物を書くのは全く出来ず、ただ、ドストエフスキイなどの本にかじりつくのがやっとでした。

しかし、そんな状態でも、何かに取りつかれたように埴谷雄高が死んだ日の事を大学ノートを引っ張り出して書かされていたとしか形容できない如くに書き始めたのでした。
しかし、それは、今読むと何が書いてあるのか殆ど解からない譫言でしかありませんでした。

私は内心「これで何が書けるかな」と密かな期待を抱きながら埴谷雄高の死んだ日の私に起きた不思議を一気に書き終えた途端、また元の木阿弥で、私はまた、何にも書けない状態に陥ることになったのでした。

それは先にも書いたように地獄の日々に違いありませんでした。
私は自身が自己弾劾の執拗な尋問に堪えるという、まさに針のむしろの上にいる自身を頭蓋内の闇に思い浮かべては自嘲するといった日々にいたのでした。
当然そんな状態ですので、自殺願望は絶えず付きまといましたが、私は何としても「生きる」と念仏を唱えるようにして、日々の苦悩を生き貫いたのでした。

生きろ

これのみを頼りに私は生き抜けたのでした。
そして、私の内部で凝り固まって不自由な自意識が内的自由を取り戻すのをじっと待ったのです。
それでもまだ、医者に行く気は全く起らずに、自力でこの地獄を抜け出る覚悟を決めていたのでした。

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